新型コロナウイルスが広がるにしたがって、最前線で戦う医療従事者はもとより、顧客と接するスーパーやコンビニ、ドラッグストアの店員、配達員、鉄道やバスなど公共交通機関の職員など、人が日常生活を営む上で欠かせない仕事を受け持っていただいている「エッセンシャルワーカー((Essential Worker))」に対し、感謝と尊敬の念が高まっています。
ところが、同じエッセンシャルワーカーにもかかわらず、あまり人の目に触れないことから、厳しい状況に置かれているコールセンターのオペレーターは残念ながら注目されているとは言えませんし、衝撃的なニュースも日々飛び込んできています。
コールセンターで従業員9人感染 ハッピー・ライフが事業停止、全員軽症
通販のコールセンター業務などを手掛ける情報通信会社ハッピー・ライフ(京都市下京区)は28日、従業員9人が新型コロナウイルスに感染したと発表した。いずれも電話対応の業務に従事していたといい、25日から事業を停止した。
Yahoo! 京都新聞
今回はこの問題を考えてみます。
コールセンターのオペレーターが置かれている環境は?
全産業を支えるサービスのインフラ
テレビでよく見るテレビショッピングや携帯電話、損害保険にはサポートセンターの存在が欠かせません。また、運輸や観光、金融・食品・製造業など幅広い産業でサポートセンターを活用している企業も多く、ほぼ全産業を陰で支えているのがサポートセンター=コールセンターのオペレーターと言っても過言ではありません。
一般社団法人 日本コールセンター協会には、2020年4月1日現在で216社が所属し、コールセンターの健全な発展に向けて取り組んでいます。
就労者数や特殊な構図
それでは、どのくらいの方がコールセンターで働いているのでしょうか?
経済産業省の平成21年度「サービスイノベーション創出支援事業 (サービス産業能力評価システム構築支援事業)」の報告によりますと、コールセンターの就労人口は90万人以上とあり小中高の教師(約90万人)、警察・消防(約40万人)、看護師(約75万人)を越えています。
やや古いデータですので、2020年度では100万人を越えているのではとも考えられます。
次に、その構造を見てみましょう。
コールセンターのオペレーターの就労形態には3つの特殊性が見受けられます。
1つ目は、約8割を越える非正規労働者の割合の高さで、アメリカ20%、イギリス30%、各国平均29%と比べると非正規比率の高さが際立っています。
2つ目は、正社員と非正規労働者の賃金格差。
3つ目は、離職率の高さです。
(独立行政法人労働政策研究・研修機構より)
加えて、オペレーターに女性が多いという特性もあります。ここまでで、コールセンターのオペレーターは、ほぼ全産業を支えるインフラ・大切な存在でありながら非正規雇用で働き、離職率も高いというハードな仕事ということが分かります。
コロナショックでさらに厳しい環境に
今回のコロナショックで、コールセンターのオペレーターはさらに厳しい状況に追い込まれています。
コールセンターは、機密性が高いことから入室管理が徹底されドアも閉じられており、メディアの取材で公開されることもなくその実像を知ることがとても難しいビジネスでもあります。
電話を受ける本数を増やすため、限られた空間に多人数がひしめき合って常に電話で話し、しかも機材を共有するなど3密で、清潔とはいいがたい環境下にありました。
そこへコロナショックで在宅者が増えたことで、入電数も増加したため、3密でコロナの感染におびえながらも、さらに出勤して仕事を行わなければならないという状況になっています。
心無い言葉に心の乱れも
スーパーや配達員とは違って、一般には見えにくい環境にあるコールセンターには、さらに大きな問題があることが知られてきました。
不要不急の問い合わせが増えるだけではなく、オペレーターに対し厳しい口調で話す、暴言を吐くなど、ストレスの発散としてコールセンターを利用するユーザーも一部にいて、心を乱す、さらに心を病むオペレーターも出ており、コールセンターという職場がさらに厳しくつらい状況になりつつあります。
多くのオペレーターは、ソーシャルディスタンスやパーティションなど環境整備を望むものの、声を上げづらい非正規という弱い立場であり、さらに経済状況から仕事を辞めるにやめられず追い込まれ、ネット上には悲鳴のような声も散見されるようになりました。
全産業に影響を与える可能性も
コールセンターは、今まで見てきたように全産業を支えるインフラになっており、特に今回のコロナショックで比較的影響を受けていない非接触で好調な産業、ネットショップやテレビショッピング、ネット損保、クレジットカードなども支えています。
コールセンターの環境改善が遅れ、オペレーターに感染が広がった場合、この非接触で好調な産業にも深刻な影響が出てくる可能性もあります。
つまり、宿泊や飲食など接触型のビジネスが壊滅的な影響を受けているうえに、コールセンターに感染リスクが顕在化し非接触型ビジネスにも悪影響が出始めると、大げさに言えば日本の全産業に極めて大きなマイナスの影響を与えることとなります。
ここは一丸となって、コールセンターの状況を知り、環境改善を図ることが急務となっています。
ニュースで取り上げられる
2020年4月25日に公開されたダイヤモンドオンライン、Yahoo!ニュースの記事が大きな反響を呼び、コールセンターのオペレーターが直面する問題点の数々が世に知られるようになって、第2弾、第3弾の記事が立て続けに公開されています。
コールセンターの「極限3密」苛酷実態、非正規雇用の不安が追い打ち
「職場は3密の極み」――。新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、コールセンターで働くオペレーターたちが怒りの声を上げている。会社員の在宅勤務が進んだのに、非正規雇用が多いオペレーターは今も、多人数がひしめく密閉空間で顧客対応に追われているのだ。
「コールセンター極限3密」大反響、続々届く苛酷すぎる職場からの悲鳴
25日朝にこの記事が公開されると、会員制交流サイト(SNS)で盛んに拡散されたのと同時に、コールセンターで働く人からの意見が続々と編集部に届いた。公開から現在までに寄せられたメールは、およそ100件に上る。1本の記事に対し、ここまで多くの反響が寄せられたことは過去を振り返っても非常にまれだ。
自宅で過ごす人が増える中、コールセンターの入電(問い合わせ)件数は増加傾向にある。職場は人手不足のため、体調不良でも容易に休めない状態にあるとみられる。「同僚が37.4度の発熱で早退するも、熱が下がったからと2日後には通常出勤していました」「休憩室が居酒屋のように込み合っている」という状況は、そこで働く人でなければ想像もつかない厳しさだ。
ダイヤモンドオンライン
また、企業によってはコールセンターを分散させるなどの改善策、VPNを活用したリモートのコールセンター新サービスなど、新しい動きもみられるようになりました。
ファンケル、コールセンター4エリアに分散 コロナ対策「密」防ぐ
ファンケルは通信販売や商品相談の電話窓口となるコールセンターを増設し、4つのエリアに分散した。新型コロナウイルスへの対応策で、従業員が密集せずに業務できるよう工夫した。
カラクリ、 コールセンター向け「リモートパック」の“ 脱・3密 ”支援キャンペーンを2020年5月31日まで延長決定!
社会インフラとして機能しているコールセンターが市民生活に与える影響は大きく、デジタルシフトをはじめとした品質保持に向けた施策が必要となり、業界全体の課題はまだ山積と言える状況です。
さらに東京商工会議所では、Webサイトで「企業向け新型コロナウイルス対策情報」を発信し、コールセンターに向けた具体的なコロナ対策などを提言しています。
■ 2023年2月9日追記
新型コロナウィルスによる影響もほぼなくなり、経済にも日常が戻ってきました。
コールセンターもコロナ渦を経て、衛生化や在宅勤務化の推進、ローテーションなど働きやすい環境への転換が進んでいます。
まとめ
今まで見てきましたように、非正規という社会的には弱い立場にありながら、ほぼ全産業を電話で支え、仕事を離れれば親や子供を支える家庭の大黒柱でもある“オペレーター”は、社会に欠かせない存在です。
クライアントやコールセンター企業、そしてコールセンターを利用するユーザーの意識改革で、オペレーターの環境を改善し、負担を軽くし、不要不急の電話をしない、人として失礼な会話をしないことは、オペレーターを守ること、さらには全産業や日本の家庭を守ることに直結します。
「強く、そしてお互いに優しく」
国民をまとめるリーダーシップや、プライベートな時間でSNSを通して国民の疑問に答える共感性、科学に基づいた根拠ある迅速な対応などニュージーランドの対応には学ぶべき点が多くあり、コールセンターの環境改善のヒントを含んでいます。(画像引用:WEDGE Infinity)
コールセンターのオペレーターの方々に対し、感謝を忘れず尊敬の念をもつこと、そして
安心して働けて、ビジネスをしっかりと支えていただけるように切に願っております。